序論の中心的な要素に先行研究のレビューがあります。先行研究はただ引用すればいいわけではなく,論文全体の流れを考えながら,研究目的や論点を明確にするような形で行う必要があります。

先行研究のレビューは,論文のテーマに関する研究の流れを整理し,論点を明確にするうえで非常に重要な役割を持っています。先行研究について書きなさいというと,関係する多数の論文をただひたすら列挙する人がいたりしますが,それではダメなのです。

ここでもやはり,話の流れが重要です。一般的には,序論の導入部分と同じように,まず大まかなテーマに関する研究を紹介し,その後次第に詳細なテーマに絞り込んでいくような形にすると良いでしょう。たとえば自然環境による心理的回復効果についての研究であれば,次のような流れでテーマを絞り込んでいくことができます。

  1. 自然に触れることでストレスからの回復が促進されることを示した研究を紹介
  2. 小規模な自然でも回復効果が得られることを示した研究を紹介
  3. 自然の風景でなくても,観葉植物などでも回復効果が得られるという研究を紹介
  4. 自然風景の写真やビデオでも同様の効果が得られるという研究を紹介

この例のように,1.自然全般 → 2.小規模な自然 → 3.観葉植物 → 4.風景写真 という流れで,それぞれ1段落から2段落ずつぐらい書いていきます(分量はあくまで目安です)。こうして,段落が進むごとにだんだんと対象を絞り込んでいき,最終的に自分の研究テーマに繋がるような流れを作るのです。

なお,上にあげた先行研究はいずれも「現象や効果の存在を示すもの」です。比較的新しいテーマでは,まずこうした「現象や効果の存在」そのものを示す研究がいくつか行われ,それからその現象や効果のメカニズムについての検討が行われるという流れが一般的です。論文を構成する際も,そうした流れに沿って,先ずは現象や効果そのものについての先行研究をいくつか引用したうえで,現象や効果のメカニズムについての話に入っていくとよいでしょう。

理論やモデルの説明

そのテーマに関連した理論やモデルには,それを実証しようとする研究が複数あるはずです。それらの研究を整理し,何が明らかになり,何が明らかでないのかを明確にすることも序論の重要な役目です。

理論やモデルの検証に関する研究を引用する際は,それらの理論やモデルを支持する研究だけでなく,それらの反論となるような研究も含めて引用しながら要点を整理していくことで,より説得力のある論文になります。結果の異なる複数の研究を総合することによって,複数の研究で共通して確かめられている部分とそうでない部分を明らかにできるからです。そもそも,都合の良い結果だけを引用することは客観性や公平性に欠ける好ましくない行為です。

なお,幅広い研究結果を引用したほうがいいからといって,序論の中で自分の研究目的と関係のない理論やモデルに関する研究まで引用する必要はありません。何でもかんでも詰め込もうとすると,結局話の流れ(ストーリー)が拡散してしまい,序論で言おうとしていることが何なのかがわからなくなってしまいます。序論の最終的なゴールは研究の意義と目的を明確にすることであるということを忘れないようにしましょう。

問題提起と研究意義の説明

先行研究の説明を行う際には,もう1つ注意しなくてはならないことがあります。それは,先行研究のレビューを通じて,自分が行なった研究の必要性や価値を示さくてはならないということです。先行研究をまとめただけでは,なぜ新たに研究を行なう必要があったのかがわかりません。卒業研究でも,研究計画を立てる段階で,関心のあるテーマについてこれまでの文献などを調べ,自分なりにその研究をやる価値があると考えて調査や実験を実施したはずです。自分が感じたその研究価値について,読み手が納得できるような形で説明する必要があるのです。

研究の価値の中心的な要素は,得られる知識の重要さ新しさです。調査や実験をする目的は,突き詰めればその結果によって何らかの知識を得るということにありますが,その研究で得られる知識がどんなことに役立つのか,なぜその知識の得られることが重要だと考えられるのかなど,まずはその知識の重要性を読み手に納得してもらえる形で説明しなくてはなりません。

心の働きを知ることそのものが目的であるような基礎研究の場合,人間の心の働きを理解するうえで自分の研究結果がどう役に立つと考えられるのか(〜の性質がより明らかになる,〜理論で説明できない部分を説明できるようになる,など)を説明することになるでしょう。また,より応用的な研究の場合には,自分の研究で得られた結果がどのような場面で役立つと考えられるか(〜が便利になる,〜がより快適になる,など)を主張することになるでしょう。

自分の卒業研究はそんな大それたものではないと思うかもしれませんが,ほとんどの研究において,一つ一つの実験や調査で得られる知識は小さなものです。そしてそうした小さな結果が多くの研究者らによって積み重ねられることにり,多くのことがわかるようになっていくのです。ですから,多くの人にわかりやすいようなより大きな目標をあげたうえで,それに対して自分の研究が(ほんのわずかかもしれないけれども)貢献できるんだということをしっかり主張するようにするのがよいでしょう。

また,わかりきっていることを手間をかけて再確認したというだけでは知識を得たことにはなりません。研究で得られた知識には何からの新しさも必要です。再現実験の場合,新しさなどないのではないかと思う人もいるかもしれませんが,比較的新しいテーマについての研究では,先行研究の結果が実際に再現可能であるということを示すのも十分新しい発見です。研究で得られる知識が新しいものであるということを主張するためによく用いられるロジック(理由づけ)には,次のようなものがあります。

  • ○○については数多く研究されてきたが,××についてはまだほとんど(まったく)研究されていない。
  • 先行研究では,○○については明らかにされているが,××の部分が明らかでない。
  • 先行研究では,○○について考慮されていない。○○を考慮すると異なる結果になるはずだ。
  • ××についてはこれまで○○と考えられてきたが,△△の方がうまく説明できるはずだ。

研究目的

問題提起や研究意義の説明が一通り終わったら,最後にそれらをまとめて研究目的を明確化させます。この研究では何を目的として何について検討したのか。その点がよくわかるよう,できるだけ簡潔に述べるようにしてください。

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